大滝詠一『ロング・ヴァケイション』
CBSソニー 27AH 1234(1981)
 僕の最初の大滝体験は1982年、バスケの練習に明け暮れていた中学2年生の頃でした。バスケ部の松井くんの家に遊びに行き『ロング・ヴァケイション』を聴かされたのです。その時「これ、新人?」と松井くんに質問したのを覚えています。恐らく全体的に玄人っぽい印象を受けたからだと思います。そして次の瞬間には、この音楽を好きになっていました。もちろん当時はまだスペクターもキング&ゴフィンも知らないわけですから、本作の奥深い魅力など到底理解できるはずはなく、若者特有の生理的な感覚だけで「この音楽、気持ちいい!」と感じたのだと思います。その後すぐにレコードを買い、毎日『ロンバケ』を聴き続けました。当時の僕の聴き方は「聴く」というよりむしろ「歌う」と表現した方がいいくらい、とにかくレコードに合わせて一緒に歌っていました。
 その後『All About Niagara』などの書籍を読んだり、70年代の作品を聴いたりして大滝詠一という人の歴史を遡っていくわけですが、それは松井くんの家で体験したあの快感の理由を解析する行為だったと思います。そして見つけたのは、膨大なポップスの遺産の中から摂取した要素を巧妙に組み立て、サウンドとメロディとリズムを奇跡的なバランスで形作るという研究を日々続けたマエストロの姿でした。そして全てのナイアガラーに洩れず、僕もその研究の確認作業(俗っぽく言えばネタ探し)に没頭する日々が続いたのです。そこで見つけた数々のポップスの黄金比は大切な宝であり、今でも戻るべき原点としてしっかり存在しています。しかしそれで松井くんの家で体験した快感理由が全て判明したかといえばそうではなく、何か大事なものを忘れているような気がしていたのです。それこそが「大滝詠一の歌唱がもたらす快感」だと気付いたのはずっと後のことでした。(つづく)