10cc「Une Nuit A Paris」
LP『The Original Soundtrack』Mercury 9102-500(1975)
 以前パリに旅行した時に滞在したのは北駅という下町。イメージしていた洗練された街とはかなり違う庶民的な雰囲気で、ホテルも場末感が漂う安ホテルでした。パリ滞在最後の晩、観光に疲れちょっと早くホテルに戻ってベットに横になりながら聴いたのが、この10ccの「Une Nuit A Paris」という曲でした。
 通りの外から聞こえる酔っ払いの叫び声。融通の利かないホテルのフロントマン。雨上がりの道路に写った怪しい店のネオンサイン。2、3日のうちにホテル周辺で体験した映像が、この曲の短編映画を観ているような細かい描写の歌詞と凝ったSEによって、頭の中にもう1度フラッシュバックしていくという、ちょっと面白い体験をしました。このミニオペラ風の組曲を作ったのが、のちのMTV時代に人気映像作家となったKevin Godley & Lol Cremeの2人。美術学校出身で映画オタクのこの2人が、60年代から英ポップス・シーンの第一線で活躍してきたEric Stewart & Graham Gouldmanと結成したのが10ccで、本作は3枚目。架空の映画のサウンドトラックというブッとんだコンセプトと、個々の作品のクオリティが最高傑作の名を欲しいままにしています。彼らの映画狂ぶりはラストに収録の「The Film Of My Love」という曲にも表れています。ハリウッド映画のタイトルを散りばめながら愛のドラマをロマンティックに謳い上げたこの曲を、僕は凱旋門に続くシャンゼリゼ通りを歩きながら聴きました。『巴里のアメリカ人』『パリの恋人』など、常にハリウッドが描いてきたパリの象徴である場所でこの曲を聴くことが長年の夢だったのです。どこかヨーロッパを感じさせるマンドリンの音色と、映画のエンドタイトルを思わせる大団円のコーラスが、シャンゼリゼの街並みにぴったりだったのは言うまでもありません。