Paul Winter with Carlos Lyra「Mas Tambem Quem Mandou」
LP『The Sound Of Ipanema』Columbia CL 2272(1964)
 僕にとってボサノヴァといえばカルロス・リラ。日本ではジョアン・ジルベルトやトム・ジョビンほど一般的ではないですが、この巨匠2人と同じくらいボサノヴァの名曲をたくさん作っている人です。90年代に来日公演を観に行った時は、パーカッションのバックだけで、低くて太いけど繊細な声を自身が弾くヴィオラォンにのせて思う存分聴かせてくれました。1936年生まれですから、当時もう60歳を超えていたはずでしたが、明るくて、よく喋って、お酒が好きで、本当にカッコいいオヤジでした。
 本作はカルロス・リラの文句無しの代表作。63年までの3枚のアルバムでは、アコーディオンがシャンソンっぽかったり、ボサノヴァというよりはサンバっぽかったりする曲が多かったのですが、ここではより都会的に、より繊細にと、堂々たるボサノヴァっぷり。サポートするミュージシャンは、ドラムスのミルトン・バナナ、ベースのセバスチャン・ネト、ピアノのセルジオ・メンデス、そして60年代初頭に音楽使節団としてブラジルを訪れて以来、ブラジル音楽の魅力に惚れ込んでしまったアルト・サックス奏者のポール・ウィンター。カルロスが長年大事に育ててきた曲たちに、絶妙な味付けをしてくれています。「Voce E Eu」「Maria Ninguem」「Coisa Mais Linda」などカルロスの代名詞と言われる名曲群の中でも、一際ロマンティックなのが「Mas Tambem Quem Mandou」という曲。この曲のヴォーカルのふっと高音に行く時の声の抜く感じが、たまらなく気持ちいいのです。ボサノヴァを象徴するキーワード、"サウダージ"が歌詞の中で連呼されるのも大好きな理由です。ちなみに先日、探してた日本盤(リオのコルコバードに建つキリスト像を使ったジャケ違い)をようやく入手!