Astrud Gilberto / Walter Wanderley「Tristeza」
LP『A Certain Smile A Certain Sadness』Verve V6-8673(1966)
 この「Tristeza」はエドゥ・ロボが作り、今までにもたくさんのブラジルのミュージシャンによって歌い継がれてきた名曲。一時期数多く出版されたブラジル物のレコード・ガイド本を見て、この曲のカヴァーが本当に星の数ほどあることを知りましたが、恐らく一番有名なのはセルジオ・メンデス&ブラジル'66の『Look Around』(68年)に入っているヴァージョンではないでしょうか。セルメン・ヴァージョンはクイーカの音も楽しげな合唱系でクラブでも人気ですが、このアストラッド・ジルベルト&ワルター・ワンダレイのヴァージョンは、アストラッドのちょっと頼りないヴォーカルを、ワルターのオルガンと、この時すでにアストラッドとは離婚していたジョアン・ジルベルトのギターがサポートするだけのシンプルなアレンジです。アストラッドのヴォーカルには楽し気な裏に見え隠れする感傷を感じます。"明るいけど切ない感じ"(まさにアルバム・タイトルの"A Certain Smile A Certain Sadness")。 ボサノヴァという音楽の魅力とはこの感じなんだなぁって思ったりしています。
 他の曲も、エリス・レジーナがトゥーツ・シールマンスと共演したヴァージョンが素晴しかった「Nega Do Cabelo Duro」や、マルコス・ヴァーリが作曲した「Summer Samba」、スキャットだけで歌われる「Portuguese Washerwoman」、オールディーズ・ファンにはお馴染みトニー・ハッチの「Call Me」など、ヴァラエティに富みながらも66年という空気を新鮮に伝えてくれる曲ばかり。
 それにしてもワルター・ワンダーレイのオルガンの音色の涼しさ!段々暑くなる日本の夏を涼しく過ごしたいなら彼のアルバムをぜひ。