『ワンダーランド駅で』
「Next Stop Wonderland」(1998年 アメリカ)
 人込みが嫌いな人、海を見るのが好きな人、そして1人の時間を大切にする人、そんな人に観て貰いたい映画が『ワンダーランド駅で』です。例えば次のようなシーンがあります。ヒロインのエリンが本屋でワーズワースの詩集を手に取ります。そこに書いてある次の言葉、"目まぐるしい世界から遠く離れ 忙しさや虚しい快楽を忘れ去る 孤独とは何と優雅で穏やかであろう" …そして流れるアストラッド・ジルベルトの「Quiet Night Of Quiet Stars」。冒頭から10分程のこのシーンで僕はこの映画の虜になったのでした。
 内容を一言で言うと、失恋したばかりの看護婦と海洋学者をめざす男が、数々のすれ違いを経て運命の出会いをするまで描いたラヴ・ストーリー。"出逢えそうで出逢えないシチュエーションが次々と重ねられていく"というアイディアは、テレビ・ドラマなどでもよく使われていて新鮮さはありません。しかし本作を特別なものにしているのは、前編に流れるボサノヴァや気の利いたセリフ、たゆたうようなドキュメンタリー風のカメラワークなどが醸し出す、クールでサウダージな空気感です。アメリカはまだこんなに繊細な映画が作れるのだなあと、とにかく驚いたのを覚えています。
 サウダージという言葉は「甘美なせつなさ」という意味合いもあるそうですが、まさしくそれを表現しているのがエリン役のホープ・デイヴィス。劇中でブラジル人の男性がエリンを見て「君はボサノヴァっぽい。悲しげなのに幸せそうだ」と言いますが、知的でメランコリックでちょっと影のある大人の女性を見事に演じていて、久々に映画の中の女性像にマイってしまいました。