『奇跡の歌』
「Looking For An Echo」(1998年 アメリカ)
 原題の『Looking For An Echo』の方が分かる人には分かるかも。ケニー・ヴァンスが作ったドゥ・ワップ時代へのオマージュ曲「Looking For An Echo」を題材にして、98年にアメリカで制作された映画です。
 美しいアカペラの歌声で60年代アメリカを席巻したドゥ・ワップ・グループ、ヴィニー&ザ・ドリーマーズのリード・ヴォーカルだった男。現在はしがないバーテンダー生活だが、周囲の人達の愛情に触れるうちにもう一度歌への情熱を取り戻していく…。この話は基本的にはフィクションなのですが、スーパーヴァイザーとしても関わっているケニー・ヴァンスの実生活に近い私小説ともいえます。ケニー自身が1961年から70年代まで在籍していた実在の人気グループ、ジェイ&ザ・アメリカンズで体験したことを脚本に反映させていることは明らかで、メンバーが再会した時の思い出話などからリアルなアメリカ音楽史の光と影を垣間見ることができます。そしてやはり感動的なのは全編を彩る「This Magic Moment」「Hushabye」「Hard To Say Goodbye」といったドゥ・ワップの名曲たち。実は本作を観て鳥肌が立つほど感動した瞬間というのは、必ずと言っていいほどこれらのアカペラ曲の最初の一声が流れた時なのです。それほど肉声のハーモニーというのは人の心を動かすものなんですね。もちろんタイトル曲である「Looking For An Echo」の劇中での使い方も泣けます。まさにこの曲の歌詞が活きるシーンを考えて脚本を書いていったと思わせるようなハマり具合。
 この映画を観た後にサントラやケニー・ヴァンスのアルバムを聴くことをお薦めします。デジタルで人工的な音の洪水に疲れた耳に、やさしく肉声のエコーが響き渡ることでしょう。