『デリカテッセン』
「Delicatessen」(1991年 フランス)
 核戦争終了後のパリ郊外に存在する精肉店兼アパート"デリカテッセン"の住人達は、肉食主義の曲者揃い。しかしそこで売られていた肉は、店主が夜な夜な調達している人肉だった…。「食糧難の近未来」「人肉」というキーワードで思い出すのは、チャールトン・ヘストン主演の『ソイレント・グリーン』(73年)ですが、本作はあそこまで深刻にストーリーを追いかけるべき映画ではありません。カニバリズムから受けるグロい印象を、美しい映像やエスプリの効いた音楽、ギャグ&ユーモアで排除しつつ、ハイセンスにまとめ上げた娯楽作品です。特に濃厚な色彩を配した凝った映像には目を見張るべきものがあり、まるでバンド・デシネ(フランス産漫画)をそのまま実写にしたよう。冒頭のタイトル・クレジットだけで背筋がゾクゾクした経験は本作と『セブン』(95年)の時だけです。あと、ジャック・タチ等フランスの映像作家全般に言えることですが、音の使い方が実に上手い。例えば、隣の夫婦の情事の時に出るベッドの軋む音や、天井をペンキで塗る時のローラーのこすれる音、ヒロインが練習するチェロの音など、アパートの住人が出すバラバラの生活音が、一定のリズムに集約して奇妙な音楽となるシーンは圧巻です。そして各所に挿入される音楽もタンゴやハワイアン、楽器で言えばバンドネオンやミュージカル・ソウを使ったドリーミーなものが多く、その素晴らしさに映画館を出たその足でサントラを購入したほどでした。
 監督はジャン=ピエール・ジュネ&マルク・キャロ。ジュネはハリウッドに招かれ『エイリアン4』(97年)を撮った後、フランスに戻って『アメリ』(01年)を大ヒットさせました。幸福感一杯の良い作品でしたが、本作に見られた邪悪さやグロテスクな志向性が薄く、個人的にはちょっと物足りなかったです。