『ワン・フロム・ザ・ハート』
「One From The Heart」(1982年 アメリカ)
 高校の時、確か杉真理さんが一番好きな映画と言っていたので観たんだと思います。恋人同士の"くっついたり別れたり"が繰り返されるストーリーは、例えばウッディ・アレンの『アニー・ホール』(77年)や『マンハッタン』(79年)といった作品と同じような感触。観賞後に感じる"大人な気分"を味わいたいがために観たくせに、すったもんだあった恋の顛末に対して「そんなもんか〜」という曖昧な感想しか出てこなかった若干17歳の自分が思い出されます。でも映像や音楽の素晴らしさは曖昧な印象ではなかったのです。
 監督のフランシス・F・コッポラは前作『地獄の黙示録』(79年)で儲かった金を全部注ぎ込んでオール・セット撮影を敢行、最先端のビデオ技術と共に大きな話題を集めましたが、興行的には大ゴケし、近年の評価でも自他共に認める大失敗作として汚名を着せられているままの作品です。今にして思えばフェリーニのような映画を作りたかったんだと思いますが、この偉大な先達の影響をモロに出しちゃうところや、前作の社会派イメージを払拭するためにこんな甘ったるい作品を作ってしまうところが何とも人間的で憎めません。個人的には、キャスティングが書かれたネオンサインを神業的なカメラ・ワークで見せる冒頭のシーンに代表される、虚構ながらも美しいラスベガスを舞台に展開される夢見心地の世界観にはたまらない魅力を感じます。
 音楽も素晴らしく、高校時代にトム・ウェイツの初期のアルバムが大好きで(特に2枚目の『土曜日の夜』)よく聴いていたのですが、本作でも彼の"酔どれ声"が堪能できます。カントリー系女性シンガーのクリスタル・ゲイルとのデュエットで聴かせるナンバーは、どれも前述した"大人の粋な世界"を華麗に演出しています。