『アマデウス』
「Amadeus」(1984年 アメリカ)
 長い映画史において、クラシック音楽を題材にした映画は星の数ほどありますが、1本を選べと言われれば1984年の傑作『アマデウス』を推すという人も多いでしょう。初めて観た高校生の時、その映画的、音楽的魅力にのぼせ上がった僕は、翌日音楽教師の準備室に押し掛けてモーツァルトのレコードを借りまくったことを覚えています。2002年に新たな映像を加えた『ディレクターズ・カット』が公開された時も映画館に観に行きました。
 この映画の面白さは今更言うまでもなく、サリエリという宮廷音楽家の目を通して描かれているという点でしょう。音楽的才能に関して平凡なサリエリという同業者を対比させることよって、単にモーツァルトの人生のみを描くよりも、その非凡性を浮かび上がらせることに成功しています。モーツァルトという天才の才能を認識する才能のみを与えられた凡人サリエリの苦悩は、恐らく世界中の90%以上を占めるであろう我々凡人の感情を激しく揺さぶります。しかも本作で描かれているモーツァルトは、女たらしで下品で享楽的な、人間的にはどうしようもない人物。そのせいで次第に貧困と病魔に苛まれていくモーツァルトを最後に死に追いやるのは、サリエリの嫉妬からくる憎しみであった!?というミステリー的解釈も本作の大きな魅力となっています。
  宮廷音楽家として華々しく暮らし、数多くの曲を残したにも拘わらず、晩年は精神病院で暮らすサリエリが、懺悔の途中で神父に自分の曲を弾いて聞かせるシーンが印象的です。サリエリの曲は1曲も知らないと言った神父が、モーツァルトの曲では目を輝かせてメロディを口ずさむのです。才能というのはこういうものなのだと、痛切に実感するシーンでした。