『ディア・ハンター』
「The Deer Hunter」(1978年 アメリカ)
 フランキー・ヴァリの1967年のヒット曲「Can't Take My Eyes Off You」はアレンジ、歌唱、演奏どれをとっても感動的で、これほど完璧なポップスもそうそうないと思うのですが、ドラマティックな曲の性格故に、映画にも結構使われています。『恋のゆくえ/ファビラス・ベイカー・ボーイズ』(89年)ではミシェル・ファイファーが艶めかしく歌っていましたし、『陰謀のセオリー』(97年)でも物語上の重要な要素として使われていました。しかし印象的だったのはやはり『ディア・ハンター』でしょう。
 ベトナム戦争の悲劇を、ディア・ハンター(鹿撃ち)達の友情を交えて描いた反戦映画の名作ですが、物語前半の時代背景が68年ということもあり、ちょうどこの曲がヒットしていた頃と重なります。鹿狩りを楽しんだ後のバーでラジオから流れるこの曲に合わせて皆で大合唱するシーン、仲間の結婚式の披露宴でバンドがこの曲を演奏するシーンなど、監督のマイケル・チミノは繰り返し使用しています。それはこれから見せる地獄絵図のような戦争描写との落差をつけるために用意した、故郷の幸せな生活の象徴として、また、ロバート・デ・ニーロとクリストファー・ウォーケンがメリル・ストリープに抱く恋心を表す"愛のテーマ"としての役割も担っているからでしょう。
 そんな重要な役割を見事にこなしたこの曲は、その後も幾度となくメディアに登場しアメリカ人の心の故郷として機能しています。67年という激動の時代に生まれたが故、そして奇跡的に美しいメロディとアレンジを有しているために、アメリカ人にとってはただのヒット曲以上の特別な意味を持ってしまったような気がします。