『ペーパー・ムーン』
「Paper Moon」(1973年 アメリカ)
 1位の『素晴らしき哉、人生!』(46年)、2位の『アパートの鍵貸します』(60年)に続いて心の映画ベスト3に入るほど好きなのが本作。今後も恐らくこのベスト3は変わらないような気がします。
  アメリカがベトナム戦争に疲れて果てていた70年代初頭、現実逃避とも思える懐古趣味が流行っていた頃に生まれた名作です。監督のピーター・ボグダノビッチという人は、音楽シーンで例えればヴァン・ダイク・パークスやランディ・ニューマンやニルソンといった人達と同じようにノスタルジックな作風を得意とする監督です。元々は映画評論家だったそうで、過去の膨大な映画遺産を研究しつくした上で生み出す作品は、どれも古き佳き時代を感じさせる名作ばかり。その中でも本作は『ラスト・ショー』(71年)と並び称される最高傑作で、脚本、キャスティング、演技、音楽、どれをとっても見事の一言。やはり語るべきは当時9歳だったテイタム・オニールの天才的な演技で、可愛いとは対照的なこまっしゃくれ方は尋常じゃありません。実の父親であるライアン・オニールも『ある愛の詩』(70年)のジメジメした役柄よりは数段魅力的。2人が手を組み詐欺をしながら旅を続けていくストーリーはチャップリンの『キッド』(21年)を彷彿とさせますが、最後もあれほどウェットにはならず、全体的に小粋なセンスでまとめられています。今回観直してみましたがやっぱり最高です。
 小さい頃、父親がナット・キング・コールのベスト盤をよく聴いていて、その中の「It's Only A Paper Moon」が大好きだったのですが、『ペーパー・ムーン』をこれほど好きになった理由の1つは、このスタンダード・ナンバーが使われていることかも知れません。