『クレイマー、クレイマー』
「Kramer vs. Kramer」(1979年 アメリカ)
 皆さんは今までで一番泣いたのはどんな映画でしょうか?僕は恐らく一番涙した映画は『クレイマー、クレイマー』だと思います。あまりにも有名な映画なので恥ずかしいですが、事実だから仕方がない。
 広告代理店に勤めるテッド(ダスティン・ホフマン)は昇進の報告をしようと喜び勇んで家に帰ります。しかし待っていたのは妻ジョアンナ(メリル・ストリープ)の家出でした。翌日から彼は家事と育児に邁進します。当然仕事の能率は低下し、昇進の話は流れ、遂にはクビに…。しかし子供への深い愛情に気づいた彼は1日で再就職を決め、元妻との養育権を巡る裁判に立ち向かっていきます。映画は父と子の生活を丁寧に描いていくので、最初観た時は当然父親側を応援しましたが、今では妻や母である前に自立した女でいたいというジョアンナの気持ちも痛いほど理解できます。後半の息詰まるような裁判劇は最大の見どころ。恐らく本質的には誰も悪くないのに、両弁護士はどちらかを悪者にしようと執拗に2人を追い詰めていきます。結局は父親側が敗れ、別れの日が来ます。妻が家出した翌朝に2人が作ろうとして失敗に終わったフレンチ・トーストを、黙って完璧に作る父と子。そして別れ際、冬の公園で息子が最後に言う「パパにはもう会えないの?」という言葉。号泣ポイントはここです。
 一切無駄のない演出とストーリー、そしてD・ホフマンの涙ぐましい奮闘ぶりやM・ストリープの繊細さ、当時絶賛を浴びた子役ジャスティン・ヘンリー君の名演技などを通して本作が示唆するものとは、家族とは何か、仕事とは何か、そして幸せとは何かという、決して簡単には答えが出ない奥深いテーマです。ヴィヴァルディなど、たった3曲のクラシック音楽の使い方も実に品が良く、一生大切にしていきたい作品です。