『アパートの鍵貸します』
「The Apartment」(1960年 アメリカ)
 アカデミー作品/監督/脚本賞を獲っていることからも世界的評価が高いのは当然なのですが、ワイルダー狂の三谷幸喜氏が散々オマージュを繰り返しているなんて小ネタを持ち出すまでもなく、この洗練された面白さは日本のクリエイターにもかなり影響を与えていると思います。組織社会で働くサラリーマンの孤独、不倫、都市の住宅問題など、後の様々な社会問題を1960年という時代にすでに取り上げている点だけでも凄いのですが、そういった映画評論的なウンチクなどどうでもよくなるくらい、とにかく恋愛映画として完璧なのです。
 上司と不倫しているOLの切なさ、そのOLに片想いしている男の切なさ、そんな切なさばっかりの映画なのに悲哀感をあまり感じさせないポップな雰囲気は、キュートなシャーリー・マクレーンとコメディ・センス溢れるジャック・レモンという主演2人の演技のせいでしょう。そういう意味ではこの映画はまさに"切なポップ映画"の代表格と言えます。更に、ジャック・レモンが世の全ての愛すべき駄目男を体現しているとしたら、これは立派な"駄目な僕的映画"であるとも言えます。そんな駄目な男たちがラストのシャーリー・マクレーンの笑顔に救われる瞬間、永遠の名画になります。
 名匠アドルフ・ドイッチによるゴージャスなストリングスを中心とした音楽も良いですが、個人的には、本作を68年に舞台化した『プロミセス、プロミセス』のオリジナル・キャスト盤の方が好きです。バート・バカラックとハル・デヴィッドのコンビによる楽曲はどれも素晴らしく、『オースティン・パワーズ・デラックス』(99年)でコステロとバカラックがカヴァーした「恋よさようなら」のオリジナルはこの盤で聴くことができます。