『バルカン超特急』
「The Lady Vanishes」(1938年 イギリス)
 ジョディ・フォスター主演の『フライトプラン』(05年)は、飛行中の旅客機から6歳の娘が姿を消すというサスペンス映画。一緒に乗ったはずの愛娘の存在を乗員乗客の誰もが認めないという状況の中、ジョディの孤立無援の戦いを描いた話題作でしたが、ヒッチコックの『バルカン超特急』に驚くほどそっくり。特にジョディが乗員乗客の説得に屈し「精神異常による錯覚」と思いかけた時、娘が書いた窓の落書きで存在を確信するという酷似したプロットには思わず「リメイクかよっ!?」とツッコミました。まあその後はマッチョなジョディの大活躍で「女性版ダイハード」な今風ハリウッド映画になってましたが。
 英国人女性(マーガレット・ロックウッド)はある老婆と知り合い一緒に電車に乗り込みますが、さっきまで紅茶を飲んで話していたその老婆が、一眠りしている間に忽然と姿を消す…。周りの誰もが初めからそんな人はいなかったと証言する中、1人の青年だけが女性に捜査の協力を申し出るのですが、この青年を演じているマイケル・レッドグレーヴが実にいい感じ。誰にも信じて貰えないという究極の怖さの中で、この青年の飄々としたキャラ(その後のヒッチコック映画の常連となるジェームズ・スチュアートやケーリー・グラントにも通じる)も、ヒロインとの軽いロマンスも、映画が深刻になり過ぎることを上手く抑えています。飴とムチというか、とにかく緩急のバランスが絶妙な本作、初期のヒッチコックの作品の中でも抜群の面白さです。恐らく現在のハリウッドにはヒッチコック好きの監督、プロデューサーは多く、これからもリメイクやオマージュ作品は後を絶たないと思いますが、オリジナル作品が持つ知的な雰囲気や、ウィット、気品みたいなものは残しておいて欲しいと思います。