『深夜の告白』
「Double Indemnity」(1944年 アメリカ)
 僕にとってビリー・ワイルダー映画とは音楽でいうビートルズの存在と同じく、どんなに幅広く映画経験を重ねても必ず戻ってきてしまう故郷みたいなもの。書籍『ワイルダーならどうする?』(キネマ旬報社)を最近また寝る前にちびちびと読んでいるんですが、何度読んでも実に面白い!! ワイルダーと同じく脚本家から監督になったキャメロン・クロウが97年から98年にかけて行ったインタヴュー本なのですが、ワイルダー狂であるクロウの重箱の隅を突く質問に対し、ワイルダー(当時91歳!2002年没)のウィットで明晰な受け答えがとにかく最高。成功作には目を輝かせて喋り、失敗作には極端に言葉少なになる(笑)この巨匠の業績を、本人の想い出と共に追体験できるということは映画ファンにとって至上の幸せなのです。
 例えばフィルム・ノワールの傑作『深夜の告白』には、フレッド・マクマレイ(『アパートの鍵貸します』の部長さんですね)がガス室で処刑されるという未公開ラストシーンがあったのは有名な話。クロウの「DVDになる時はぜひボーナス映像で収録を」という申し出に「マスターがあったらね」などと答える2人のやり取りが微笑ましいです。残念ながら本作のDVDにはそのボーナス映像はありませんが、久しぶりに観直したらやっぱり面白い。保険金殺人をしかけるためにマクマレイを誘惑するバーバラ・スタンウィックの妖艶さ、同僚が犯人だと知らずに捜査に乗り出すエドワード・G・ロビンソンの圧倒的な存在感など、同じミステリー作品の『サンセット大通り』(50年)『情婦』(57年)に負けず劣らずの傑作だと思います。